薬剤師
『嚥下困難者用製剤加算の算定要件は?』
その疑問に答えます。
僕は調剤薬局の管理薬剤師を8年ほど。
薬剤師は10年以上やっています。
この記事では、嚥下困難者用製剤加算の算定要件を例をあげながら説明します。
嚥下困難者用製剤加算とは?
嚥下困難者用製剤加算(以下、嚥下加算)とは、簡単に言えば、錠剤を粉砕したり、カプセルを脱カプセルしたときに算定できる加算です。
お薬代の構成は上記のとおりです。
嚥下加算は、調剤料の中に80点が加算されます。
嚥下加算の概要
調剤報酬点数の概要には以下のようにわかりにくいです。
注2 嚥下困難者に係る調剤について、当該患者の心身の特性に応じた剤形に製剤して調剤した場合は、嚥下困難者用製剤加算として、所定点数(調剤料)に80点を加算する。
嚥下加算の補足
補足もわかりにくいです。
補足(調剤報酬点数表に関する事項)
キ 嚥下困難者用製剤加算の取扱いは、以下のとおりとすること。
① 嚥下困難者用製剤加算は、嚥下障害等があって、市販されている剤形では薬剤の服用が困難な患者に対し、医師の了解を得た上で錠剤を砕く等剤形を加工した後調剤を行うことを評価するものである。
② 剤形の加工は、薬剤の性質、製剤の特徴等についての薬学的な知識に基づいて行わなければならない。
③ 嚥下困難者用製剤加算は、処方箋受付1回につき1回算定できる。
④ 1剤として取り扱われる薬剤について、自家製剤加算は併算定できず、また、剤形を加工したものを用いて他の薬剤と計量混合した場合には、計量混合調剤加算を併算定することはできない。
⑤ 嚥下困難者用製剤加算を算定した場合においては、一包化加算は算定できない。
⑥ 薬剤師が剤形の加工の必要を認め、医師の了解を得た後剤形の加工を行った場合は、その旨調剤録等に記載する。
嚥下加算のポイント
わかりにくいので、わかりやすく解説していきます。
嚥下加算のポイントは以下のとおりです。
- 医師の指示または了解
- 1つだけでも算定可能
- 処方箋受付1回につき算定
- 同成分の粉薬がないこと
- 一部のみの粉砕は算定不可
- すべて飲みやすいなら一部の粉砕でも算定可
- 嚥下困難などで飲めないことが理由であること
- 内服薬のみが対象
- すべての処方が飲みやすいこと
- 計量混合調剤加算も算定できるときがある
- 自家製剤加算も算定できるときがある
- 一包化加算はとれない
- 薬学的知識にもとづいていること
例をあげながら説明していきます。
医師の指示または了解
B錠 3錠 毎食後
一包化指示
算定不可
粉砕の指示または了解がないと嚥下加算は取れません。
一包化の指示でも算定はできないです。
H16年:調剤報酬点数表にかかる疑義解釈
Q:嚥下困難者用製剤加算は、医師の指示が必要となるのか。
A:医師の指示又は医師の了解が必要である。
1つだけでも算定可
粉砕
算定可
たった1つだけの薬を粉砕しても、嚥下加算が算定できます。
処方箋受付1回につき算定
A錠
粉砕
<乙病院>
B錠剤
粉砕
2つ算定可
複数の医療機関からの処方箋の場合、受付回数は2回になります。
よって、2つの嚥下加算の算定が可能です。
H16年:調剤報酬点数表にかかる疑義解釈
Q:嚥下困難者用製剤加算は、処方箋の受付1回につき算定は1回と考えてよいか。
A:その通り
同成分の粉薬がないこと
粉砕
(Aに粉薬あり)
算定不可
Aに粉薬があるので、粉砕しても算定はできません。
(ただし、A錠とAの粉薬に適応の違いがある場合、算定できる地域があります。)
B錠 2錠 朝夕食後
粉砕
(Aに粉薬あり、Bに粉薬なし)
算定可
剤が違うなら、Bで嚥下加算をとればいいです。
そのため、Aに粉薬があっても嚥下加算がとれます。
また、粉薬というのは、ドライシロップ、顆粒、細粒などをいいます。
粉砕
(AにOD錠あり)
算定可
口腔内崩壊錠は、対象外のため算定可です。
※地域によってはNGの場合もあるので確認してください。
一部のみの粉砕は算定不可
B錠 3錠 毎食後
A錠のみ粉砕
算定不可
嚥下加算は、薬の飲み込みが難しい人に対して薬を加工した時に算定できる加算です。
すべてが飲みやすく加工していないといけません。
上記の例では、B錠が飲みやすくないので算定できません。
この場合は、自家製剤加算を算定します。
すべて飲みやすいなら一部の粉砕でも算定可
B(OD)錠 3錠 毎食後
A錠のみ粉砕
算定可
Bは口腔内崩壊錠です。
そのため、A錠だけの粉砕でも、すべてが飲みやすくなっています。
よって算定可です。
H16年:調剤報酬点数表にかかる疑義解釈
Q:本来、流通している剤形で品質が保証されているので、なるべく粉砕等は避けたいと考えるが、複数の錠剤などが処方されている場合において、ある特定の1つの医薬品のみ嚥下困難であるため剤形変更を行った場合でも算定可能か。
A:他の医薬品が液剤等のため容易に服用することが出来る場合であって、当該1医薬品を加工することにより、処方箋中のすべての医薬品が、服用しやすくなる場合は算定可。
基本的には、嚥下困難者用として処方箋中のすべての薬剤が容易に服用できるように加工する必要があり、1医薬品のみの剤形変更で技術評価されるものとは限らない。
理由により、嚥下困難者用製剤加算ではなく自家製剤加算の散剤を算定することもありえる。
嚥下困難などで飲めないことが理由であること
粉砕
算定不可
この例において、A錠を粉砕する理由は、粉砕しないと調剤できないからです。
嚥下困難などが理由で、患者さんが飲めないからではありません。
よって算定不可です。
内服薬のみが対象
粉砕
算定不可
嚥下加算がとれるのは毎食後や朝食後などの内服に該当する薬だけです。
頓服は対象外です。
よって算定不可です。
この場合は、自家製剤加算を算定します。
H16年:調剤報酬点数表にかかる疑義解釈
Q:嚥下困難者用製剤加算は、頓服薬の場合は算定できないのか。
A:算定できない。
すべての処方が飲みやすいこと
A錠 2錠 朝食後
粉砕指示
(9/1処方)
B錠 2錠 朝食後
算定不可
8/1の処方では、粉砕しています。
しかし、9/1の処方は、粉砕していません。
これでは、
『この患者さん、嚥下困難じゃないでしょ?』
となってしまいます。
嚥下加算を取ってしまうと、それ以降の処方はすべて飲みやすく加工する必要がでてくるというわけです。
個別指導や返戻でつっこまれたとき、
『飲めるようになった』
と回答するのもありですが、少し苦しいですね・・・
よって算定不可です。
計量混合調剤加算も算定できるときがある
両方算定できる条件は、
- 別剤であること
- 粉砕した薬で混合していないこと
です。
B散 1g
C散 1g 朝食後
A錠粉砕し、すべて混合
同時算定不可
(嚥下加算か計量混合調剤加算のどちらかで算定)
剤が1つであるため、嚥下加算と計量混合調剤加算の両方を取ることはできません。
B散 1g 朝夕食後
Aを粉砕し、ABで混合
同時算定不可
(嚥下加算か計量混合調剤加算のどちらかで算定)
剤が2つですが、粉砕した薬を混合しています。
この場合も同時に算定はできません。
B散 1g
C散 1g 朝夕食後
Aのみ粉砕
BCで混合
同時算定可
剤が2つ以上あり、粉砕した薬とは異なる薬を混合しています。
このケースは、同時に算定することができます。
自家製剤加算も算定できるときがある
算定できる条件は
- 別剤であること
です。
B錠 2錠 毎食後
粉砕
同時算定可
剤が異なるため、一方で嚥下加算、もう一方で自家製剤加算を算定することが可能です。
ただ、この同時算定は不可とする地域もあります。
事前に確認してください。
ちなみに、
B錠 0.5錠 朝食後
A粉砕
同時算定不可
(自家製剤加算のみ)
これは、わかると思います。
嚥下加算を取るためには、すべての薬が飲みやすいことが必要です。
半錠では飲みやすくなっていないので、嚥下加算は算定不可です。
(『半錠の大きさなら飲める!』と言うのもいいですが、取らない方がベター)
一包化加算はとれない
計量混合調剤加算、自家製剤加算は同時に算定できることがあります。
しかし、一包化加算は同時に算定できません。
嚥下加算、一包化加算いずれも、『すべての薬を飲みやすくする』という技術を評価したものだから同時に算定はできないようです。(いちゃもんみたいな条件ですが、お国はそう言っています・・・)
B錠 3錠
C錠 3錠 毎食後
D錠 1錠 眠前
すべて粉砕して分包
同時算定不可
(嚥下加算のみ、または、ABCで一包化加算+Dで自家製剤加算の算定可)
嚥下加算と一包化加算の同時算定はできません。
しかし、ABCで一包化の要件を満たすので、これで一包化加算をとり、Dで自家製剤加算を取ることができます。
薬学的知識にもとづいていること
薬学的知識にもとづいて、粉砕しても問題ない薬を粉砕しなければなりません。
粉砕
算定可
OD錠を粉砕しても、薬学的に問題なければ算定は可能です。
しかし、
粉砕
算定不可
タケプロンは腸溶錠コーティングされているので、粉砕がNGの薬です。
この薬で、嚥下加算を取ることはできません。
(腸溶性がこわれない程度に軽く粉砕すれば、嚥下加算が取れるとする地域もあります。しかし取らない方がベターです。)
タケプロンOD錠 1錠 朝食後
Aのみ粉砕
算定可
タケプロンOD錠を粉砕しない薬学的理由を調剤録、薬歴に残し、医師の了解があれば嚥下加算の算定が可能です。
粉砕が可能かどうかは、この本を参考にしてください。
以上になります。
間違えないように注意したつもりですが、あやまった記載があれば教えていただけると幸いです。
最後まで読んでいただいてありがとうございました。